プレゼンテーションではこれまでのプロセスを踏まえながら、劇場空間での上演を行います。戯曲『ウォーターフォールを追いかけて』は、2020年7月に早稲田大学の学生とともに行われた「ドラマゼミ」の成果物から、カゲヤマ気象台により執筆されました。タイトルの「ウォーターフォール」はアメリカのR&Bグループ、TLCによる1995年のヒット曲「Waterfalls」に由来します。曲中での「waterfalls」は犯罪やドラッグ、エイズといった、当時社会問題とされていたような暗部に落ちてしまうことを表すメタファーです。本上演は、分断の時代におけるドラマの意義の再発見を目指してきた、1年間のプロジェクトの終わりに位置します。しかし、依然として私たちの日常は続きます。本プロジェクトが終わった後も、危機に飲み込まれそうになった時に処方箋として思い出せるような、そんな上演を目指します。
ストーリー
エンジニアの仕事を辞め、街をぶらつく“創造主”は、道端にフロッピーディスクが落ちているのを見つける。保存されていた野良のプログラムを起動すると、“創造主”の前に部屋が現れる。創造主によれば、その部屋は「みどりのいえ」なのだという。「みどりのいえ」ではこだわりの強い“惑星”、何事にも興味のなさそうな“鳩”、どうやら精神的に病んでいるらしい“先生”の会話が展開される。ほどなくして、“ビニール袋”がやってくる。どうやら「みどりのいえ」に偶然にも迷い込んだらしい。「みどりのいえ」の住人と会話を重ねる中で、実は“ビニール袋”はこの部屋を崩壊させるバグであることが判明する。バグにより機能を停止していく“創造主”。そんな彼を尻目に、“ビニール袋”は新たにやってきた“白シャツ”と問答を始める。問答の結果、“創造主”は二人によってまとめられ、どこかに運ばれていく。空白になった舞台に“構成員”がやってくる。“構成員”の語りから浮かび上がってくるのは、“構成員”は“創造主”の別の可能性なのかもしれないということ。やがて「みどりのいえ」は崩壊する。
――目の前にある「現実」を見つめるために――
『ウォーターフォールを追いかけて』ステイトメント(カゲヤマ気象台)
『ウォーターフォールを追いかけて』は、私たちの直面している「現実」を描き出すための演劇です。これは、かつてのリアリズム演劇――写実的に描かれた個人の心理や行動を、「第四の壁」の向こうから観察する、人生の実験場としての演劇――に範をとっています。リアリズム演劇において、観客は自分と等しい一個人を目撃し、その人物と同調しながら一連のドラマを体験し、最後には自分の生を同じ「現実」として振り返りつつ、それに向き合うことができます。約150年前に出発したリアリズム演劇は、戦後の近代批判の風潮の中で乗り越えられるべきものとされました。しかしまさに今現在私たちの目の前に置かれた「現実」を描き出すためには、改めて過去のリアリズムの方法論を見つめ直しつつ、更新するような「新しいリアリズム」が有効なのではないか。そのための試みがこの『ウォーターフォールを追いかけて』です。
前提となっているのは、「現実」の断片化し、散らばった姿です。もはやリアル/ウェブの二項対立は崩れ、匿名と顕名を横断し、複数のアイデンティティを抱えながら生きる我々は、一貫した生を保持できずにばらばらに拡散しています。この、繋ぎ止めるものの希薄な世界の中で、感情や欲望は強く駆動して我々の言動や消費活動、時には考え方そのものにすら影響を与えます。その力は精神を抑圧し、健康を害したり、時には犯罪を誘発させます。断片化した「現実」には論理がないようにも見えます。「なぜこうなっているのか、誰も説明できないし、誰も望んでいるわけでもないのに、なぜかこうなっている」のが、この「現実」の姿です。
『ウォーターフォールを追いかけて』で描かれているのは、そんな「現実」です。このドラマの中で行われるあらゆる行動は、かつてのドラマのように世界を揺るがしたり、変革させたりはしません。すべてはただ「現実」の中に取り込まれてしまいます。「現実」はそもそも不定形であり、アメーバのように姿を変えます。たまたまうまくいっているように見えても、それはあくまで偶然の姿であり、次の瞬間にはまったく違ったものに変わっているかもしれません。この世界の中では、一貫性を保つことは難しい。可能なのは、次々に押し寄せる感情や欲望、不条理を乗りこなしつつ、その先の風景を受け入れていくことでしょう。
一貫した人間に即したドラマがかつてのリアリズムなのだとすれば、「新しいリアリズム」としての演劇である『ウォーターフォールを追いかけて』は、一貫せず、断片的であったり矛盾したりする、まさに今の「現実」に即した形をとっています。奇妙でありつつ、しかしそれはどこか知っているような奇妙さかもしれません。私が期待するのは、かつてのリアリズム演劇と同じように、観客がこれに同調をしてくれること、そしてその先に自分の生を同じ「現実」として振り返り、しみじみと感じ入ってくれることです。
原案
ドラマゼミメンバー(カゲヤマ気象台*、片山さなみ、中西空立、マツモトタクロウ)
カゲヤマ気象台
1988年静岡県浜松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。東京と浜松の二都市を拠点として活動する。 2008年に演劇プロジェクト「sons wo:」を設立。劇作・演出・音響デザインを手がける。2018年より「円盤に乗る派」に改名。2013年、『野良猫の首輪』でフェスティバル/トーキョー13公募プログラムに参加。2015年度よりセゾン文化財団ジュニア・フェロー。2017年に『シティⅢ』で第17回AAF戯曲賞大賞受賞。
片山さなみ
2020年1月まで劇団てあとろ50'に所属し、俳優、制作として活動。『うっかり!ハッピーエンド』、『夏じゃなくてお前のせい』(モミジノハナ)等に出演。現在は会社員。
中西空立
早稲田大学文学部日本語日本文学コース3年。劇団木霊3年代照明スタッフ。
2020年度劇団木霊本公演『トランス』作・演出。
言葉とアンチョビが好き。
マツモトタクロウ
早稲田大学文化構想学部卒業。matawa所属。大学進学とともに演劇活動を開始し、主に劇作・演出を手がける。中高時代より映画への関心が強く、中でも寺山修司やアレハンドロ・ホドロフスキーなどからは多大な影響を受けている。
脚本・演出
カゲヤマ気象台*
カゲヤマ気象台
1988年静岡県浜松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。東京と浜松の二都市を拠点として活動する。 2008年に演劇プロジェクト「sons wo:」を設立。劇作・演出・音響デザインを手がける。2018年より「円盤に乗る派」に改名。2013年、『野良猫の首輪』でフェスティバル/トーキョー13公募プログラムに参加。2015年度よりセゾン文化財団ジュニア・フェロー。2017年に『シティⅢ』で第17回AAF戯曲賞大賞受賞。
出演
小山薫子(ままごと)、キヨスヨネスク、立蔵葉子(青年団、梨茄子)、西山真来(青年団)、畠山峻*、日和下駄*
小山薫子
1995年生まれ。俳優。劇団ままごとに所属し、「ツアー」「反復かつ連続」などに出演。俳優2人による劇ユニットhumunusを結成し、「海足を踏めない」「し/ま」などを創作し上演。現在は福島県富岡町での活動も行なっている。身体の存在のさせ方によって風景がより浮かび上がって見えてくる作用を、様々な場所と声・身体の関係から試行している。円盤に乗る派は「正気を保つために」「流刑地エウロパ(再演)」に出演。
キヨスヨネスク
1992年生まれ。俳優。劇ユニット「humunus」結成。声と身体の関係から、風景とそれらを構成する"空間の肌理"をいかに「うつし」「かたどる」かをテーマに活動。現在福島県富岡町に拠点を構え、リサーチと創作を行っている。
主な出演作に、KUNIO14「水の駅」、円盤に乗る派「清潔でとても明るい場所を」、ホモフィクタス「灰と,灰の灰」、humunus「海足を踏めない」など。
立蔵葉子
俳優、梨茄子主宰。所属する劇団青年団では『サンタクロース会議』『忠臣蔵・OL編』『さよならだけが人生か』などに、青年団の他には五反田団、木ノ下歌舞伎などに出演する。円盤に乗る派への出演は『正気を保つために』に続き2回目。主宰する創作用ユニット梨茄子ではパフォーマンス『この部屋の重力』『その実ができるまで』『「丁寧な生活/サヨナラ」展』を発表。日々、短歌やメールマガジンを作っている。
https://note.com/nashinasu
西山真来
京都の「象、鯨。」という劇団で作・演出をやってました。解散後は俳優として映画や演劇に出演しています。近作は映画「なんのちゃんの第二次世界大戦」「れいこいるか」「スパイの妻」や、マレビトの会「グッドモーニング」犬飼勝哉「ノーマル」モメラス「反復と循環に付随するぼんやりの冒険」などの演劇作品です。カゲヤマ作品は「幸福な島の誕生」に続いて2回目です!
畠山峻
1987年北海道札幌市生まれ。舞台芸術学院演劇部本科卒。俳優としてブルーノプロデュース、20歳の国、亜人間都市などの作品に出演。カゲヤマ気象台の作品では『おはようクラブ』『野生のカフカ@おいしいカレー』『流刑地エウロパ』などに出演。演劇ユニットpeople太では演出をしています。
https://t.co/8zLKaMfpQW?amp=1
日和下駄
1995年鳥取県生まれ。2019年より円盤に乗る派に参加。以降のすべての作品に出演。特技は料理、木登り、整理整頓、人を褒めること。人が集まって美味しいご飯を食べることが好き。下駄と美味しんぼに詳しい。
音楽・illustration
AOTQ
舞台監督
鐘築隼
鐘築隼
1995年生まれ、大学中退後、一般企業に就職するも2週間余りで辞職。その後はフリーランスとして主に小劇場や小スタジオなどでの演劇公演やダンス公演の舞台監督を務める。最近では枠に囚われ過ぎない仕事のやり方を模索中。
空間設計
瀬田直樹
瀬田直樹
1995年生まれ。埼玉県出身。
大学で建築の意匠設計を専攻する。卒業後設計事務所就職。
「なりきり」をテーマに身体と空間とまちの関係性を模索。
見えるものも、見えないものも、丁寧に着目し、空間を設計していく。
舞台美術
小駒豪
小駒豪
1983年東京生まれ
演劇などの舞台美術や照明を中心に、
店舗内装など、分野問わず、
設計および、製作をやっています。
武蔵野美術大学卒業後、
飴屋法水、生西康典の現場に、主にスタッフとして関わる。
近年は、武本拓也、情熱のフラミンゴ、などの現場で照明や舞台美術を担当。
照明
みなみあかり(ACoRD)
みなみあかり
舞台照明家。ACoRD代表。舞台照明デザイナー。
遅れて迎えた思春期を謳歌している人。演劇を中心にミュージカル・バレエ、エンタメなどジャンルにとらわれず作品に光を灯す。バーチャルステージや京都劇場へも進出し、まだまだ新しい世界が見たい今日この頃。
円盤に乗る派では「清潔でとても明るい場所を」「流刑地エウロパ」などの照明デザインを担当
Twitter/Instagram:@akariMinami
照明補佐
佐伯香奈(LST)
佐伯香奈
大学在学中に舞台照明や映像照明を学ぶ。
卒業後LSTに所属しながらフリーランスに活動中。
主に小劇場やホール、イベントなどの照明オペレーションやピンスポットを扱う。
音響
カゲヤマ気象台*
カゲヤマ気象台
1988年静岡県浜松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。東京と浜松の二都市を拠点として活動する。 2008年に演劇プロジェクト「sons wo:」を設立。劇作・演出・音響デザインを手がける。2018年より「円盤に乗る派」に改名。2013年、『野良猫の首輪』でフェスティバル/トーキョー13公募プログラムに参加。2015年度よりセゾン文化財団ジュニア・フェロー。2017年に『シティⅢ』で第17回AAF戯曲賞大賞受賞。
衣装
蜂巣もも(グループ・野原/青年団演出部)、永瀬泰生(隣屋)
蜂巣もも
1989年生まれ。京都出身。演出家。
2013年からより多くの劇作家、俳優に出会うため上京し、青年団演出部に所属。 また、庭師ジル・クレマンが『動いている庭』で提唱する新しい環境観に感銘を受け、岩井由紀子、串尾一輝、渡邊織音らと「グループ・野原」を立ち上げる。
演劇/戯曲を庭と捉え、俳優の身体や言葉が強く生きる場として舞台上の「政治」を思考し、演出を手がける。円盤に乗る派、鳥公園にも参加し、演出、創作環境のブラッシュアップをともに考える。
永瀬泰生
1995年生まれ。大阪出身。
衣裳家・俳優として活動。演劇をつくる団体「隣屋」所属。
国内外カンパニーの衣裳デザイン・製作・アシスタントなど。
舞台上でリアルタイムで作品製作をするライブソーイングや、作品に関連したグッズ製作も行う。
デザイン
大田拓未
大田拓未
1988年東京都生まれ。アートディレクター/グラフィックデザイナー。国内外でエディトリアル、音楽、ファッションなど多方面にて活動中。最近の仕事に「magazine ii(まがじんに)」アートディレクション、YOASOBI「三原色」ジャケットデザインなど。
写真
濱田晋
濱田晋
1987年 兵庫県生まれ。 主にポートレイト・ドキュメンタリー・取材の分野で撮影を行うほか、年に数回の展示と作品集の発行を継続中。
shinhamada.com
STONE編集
黒木晃
黒木晃
1988年東京都荒川区生まれ。編集者。出版プロジェクト「Curtain」編集・発行人。
ライター
住本麻子
住本麻子
1989年生まれ、福岡県出身。ライター。文芸誌やカルチャー媒体を中心に、インタビューや対談の構成、論考などを発表。企画・インタビュー・構成で関わったものにwezzyの「表現と自由」特集、構成に「飛浩隆×高山羽根子「ディストピア小説の主人公とは誰か 嫌(いや)視点の作り方」」(『文藝』2021年春季号)、論考に「傍観者とサバルタンの漫才-富岡多惠子論」(『群像』2021年7月号)などがある。
レポーター
佐藤朋子
佐藤朋子
1990年長野県生まれ、神奈川県在住。2018年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャーの形式を用いた「語り」の芸術実践を行っている。近年の活動に、《オバケ東京のためのインデックス》(シアターコモンズ, 2021-)《TWO PRIVATE ROOMS ― 往復朗読》(theca, ウェブサイト, 2020-)《MINE EXPOSURES》(個展, BIYONG POINT, 2019)《The Reversed Song, A Lecture on “Shiro-Kitsune (The White Fox)“》(2018-)など。
WEB|http://tomokosato.info/
記録映像
佐藤駿
佐藤駿
1990年生まれ。俳優・映像ディレクター。大学在学中より映画制作や出演を始める。撮影を担当した『Sugar Baby』(隈元博樹監督、2010)が水戸短編映像祭審査員奨励賞受賞。2016年ごろよりパフォーミングアーツをつくる集まりとして「犬など」をはじめる。以降、演劇などへの出演多数。身体を内側から観察する俳優と、身体を外側から観察する映像制作の間で、演じることの問題について考えている。最近の主な出演に、屋根裏ハイツ『ここは出口ではない』、円盤に乗る派『流刑地エウロパ』など。
制作統括
河野遥(ヌトミック)
河野遥
1996年生まれ。国立音楽大学音楽文化教育学科卒。ヌトミック所属。制作として所属団体のほか、小劇場を中心に活動する劇団やユニットの公演制作を複数つとめる。円盤に乗る派はこれまでに、「清潔でとても明るい場所を」「流刑地エウロパ」等に参加。
制作
金森千紘
金森千紘
1981年東京都生まれ。大学で建築を学んだ後、美術書の企画営業、ポラロイドフィルムの再生産プロジェクトに従事。現代美術のギャラリーに勤務後、現在は、フリーランスでアーティストのマネージメント、展覧会企画などをメインに活動。
当日運営
黒澤たける
黒澤たける
1990年生まれ。フリーランスの制作として商業から現代演劇まで幅広いマネジメントを行う。大学で現代ビジネスを学び、舞台芸術の制作業務に応用している。
企画
カゲヤマ気象台* 、日和下駄*
カゲヤマ気象台
1988年静岡県浜松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。東京と浜松の二都市を拠点として活動する。 2008年に演劇プロジェクト「sons wo:」を設立。劇作・演出・音響デザインを手がける。2018年より「円盤に乗る派」に改名。2013年、『野良猫の首輪』でフェスティバル/トーキョー13公募プログラムに参加。2015年度よりセゾン文化財団ジュニア・フェロー。2017年に『シティⅢ』で第17回AAF戯曲賞大賞受賞。
日和下駄
1995年鳥取県生まれ。2019年より円盤に乗る派に参加。以降のすべての作品に出演。特技は料理、木登り、整理整頓、人を褒めること。人が集まって美味しいご飯を食べることが好き。下駄と美味しんぼに詳しい。
*=円盤に乗る派プロジェクトチーム