GUIDE FOR BEGINNERS
観劇ガイド
はじめての円盤に乗る派

GUIDE FOR BEGINNERS
観劇ガイド
はじめての
円盤に乗る派

円盤に乗る派をはじめて観るあなたに送る、円盤に乗る派作品を楽しむためのヒント!

円盤に乗る派とは?

カゲヤマ気象台を代表とし、2018年にスタートした演劇プロジェクト。カゲヤマが演劇作品を作る際に重視する、日常生活の中の「自由さ」と「豊かさ」を損なうことなく劇場に立ち上げる試みを集団のあり方にまで拡張し、「複数の作家・表現者が一緒にフラットにいられるための時間、あるべきところにいられるような場所」を目指す。 劇場を訪れ、帰っていくまでに体験する全てを「演劇」として捉え、雑誌の発行、シンポジウムの開催など、上演外の取り組みも積極的に行う。2019年より演劇とよりシームレスにつながるためのコミュニティ「円盤に乗る場」を運営中。
【HP】https://noruha.net/

世界観

円盤に乗る派作品の舞台は、現代とよく似ているがどこか異なる架空の現在、あるいは未来です。SF作品の定義にまつわる言葉に「センス・オブ・ワンダー(驚異の感覚)」というものがあります。これは、自身と世界との関係を理解したときに覚える驚きや感動のことですが、批評性をもって現実を相対化する円盤に乗る派の作品は、その意味でSF的と言えるでしょう。単なる虚構の世界ではなく、あり得たかもしれない、あるいはあり得るかもしれない現実としての作品世界は、日常生活においてまだ意識されていなかった「自由さ」や「豊かさ」を、驚きとともにもたらすかもしれません。

舞台空間

舞台美術というと、「図と地」でいう「地」の部分、と思われる人もいるかもしれませんが、円盤に乗る派作品における舞台美術は、ひとつの独立した「もの」として存在しています。それは、舞台美術に限った話でなく、作中で流れる音楽や、照明、そしてもちろん俳優もそうです。言うなれば、「図と図」のような状態。舞台空間を構成するすべてが互いに影響を与えあい、息を潜めながらうごめいているかのように感じられるほど密度の高い舞台空間となっています。 そのようにして、それぞれの要素がソリッドな状態にあるからこそ、その観方は観る人によって異なってくる。観る人の在り方が反射されより豊かな鑑賞体験を生む大きな前提要素として、舞台空間が組まれているのです。

演技

円盤に乗る派作品における演技は、映画やドラマでのいわゆるリアルな演技とも、ミュージカルのような大きな声と身振りによる演技とも異なっています。動きはどこかぎこちなかったりと不安定な印象を受けるかもしれません。また、朗々と喋るわけでもなく、震えたような声で発話される台詞は不思議なリズムや起伏を持っています。そして、そういった身体や声の揺らぎは俳優それぞれが個別に持っているものです。 舞台上にいる俳優の身体は、焚き火や波の押し引きのようにゆらゆらと変化します。人によっては、それを心地よいと感じるかもしれないし、あるいは張り詰めたような空気を感じるかもしれない。揺らいだ身体が台詞や舞台空間に反射して、何かを見出すこともあるかもしれない。円盤に乗る派での演技は、そうして観客の身体もが共振するようにいつの間にか舞台上と何らかの関係を持ってしまうような引力があります。

台詞

普段の生活で漫画のモノローグのように、実際に喋りながら頭の中で何かを考えている、なんてことはないでしょうか? 円盤に乗る派の台詞は、そういった頭の中の喋りと実際の喋りが混ざったような状態。だから、文法や論理がめちゃくちゃだったり、唐突に固有名詞が出てきたりするような飛躍があります。かつ、それをひとつの台詞にしてしまうというある種の強引さによって、台詞は言葉にならない思考を凝縮したかのような質量を持っています。 この飛躍と強引さは、台詞と台詞の間にもあります。映画やドラマでカットが変わって回想シーンが挿入されるというのがありますが、円盤に乗る派の作品でも同じように物語の時空が簡単に飛んでしまう。それでいて、それらが連なることで一つの筋として全体を成しているのが円盤に乗る派作品の不思議さであり魅力でもあります。

よくわからない

最後に。観た直後の感想が「よくわからない」だったとしても大丈夫です。未知のものにドキドキするように、わからなさをおもしろがることも一つの楽しみ方。じっと観続け、そこに意味を見出していくことはあなたがその作品に参加するということなのです。
〈文責:冨田粥〉

もっと知りたい人は……